大判例

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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2789号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は被告と友人を介して知合い、二、三度交際をするうち親切な態度と真面目な態度で結婚後の生活設計等を折り交せて求婚され、それ以来結婚を前提として交際するようになり、被告の決意の固いことをたしかめ得た折から、昭和二三年ころ、被告から求められるまま肉体関係を結び、ここに両者間に婚姻予約が成立した。いらい原告は被告を夫と思い正式の結婚を期待しつつ、被告の求めるに従つて肉体関係を結び、かような関係を昭和三一年三月ころまでつずけた。この間、昭和二七年六月ころまでは被告所有の家屋に夫婦同様の共同生活を営み、原告が旅館経営のため他へ移転してからもその旅館へ訪ねて来て関係を結んでいた。ところが昭和三一年三月ころ被告の態度が冷淡となり、そのころ図らずも被告は昭和二五年二月八日すでに訴外小林コイと婚姻し届を了してあることが判かり、すでに被告は原告と結婚する意思がなくなつていたことが判明した。原告は約九年の長きにわたり被告との婚姻の実現を期待していたが、被告のいわれなき婚姻予約不履行によりその期待を裏切られ、すでに純潔を失い、再婚の機会と時期を逸し、莫大な精神的損害をうけそして金五〇〇万円の慰藉料を請求した。

被告は原告と肉体関係のあつたことをみとめたが相互に享楽を目的としたものであり、同棲したことも、婚姻予約をしたこともないと抗争した。

判決は、両者同棲の事実等を否定した上、婚姻予約の成立を否定したが、婚姻予約の成立につきつぎのとおり説明している。曰く。

「たしかに婚姻予約の成立には形式は必要ではない。さりとて結婚しようと口で言つて肉体関係を結んだからと言つてそれで婚姻予約が成立したというものではない。婚姻予約とは互に真意をもつてこれを為し、その決意もまた極めて慎重を期したものであることを要し、男女が誠心誠意をもつて将来夫婦となることを予期して契約し、全くこのような契約をしていない自由な男女とは一種の身分上の差異を生ずるに至る程度の合意でなければならない。必ずしも予約成立後同居しなければならぬというものではないが、当事者間に夫婦としての共同体を将来形造ろうとの合意が成立することが必要である。一時の情熱に浮かれた行為、恋愛関係にある男女の睦言、閨房の単なる睦言ではいけない。婚姻予約が成立したとなると、性的享楽を旨としたかりそめの結合たる私通関係とは誰が見ても区別してこれを怪しまない程度の事実が現われて来なければならない筈である。婚姻予約者として拘束される地位が社会的に公認される程度に至つて初めて婚姻予約者たる地位は法によつて保護されるのである。

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